大隅半島の中央に位置する鹿屋エリア。豊かな自然の中で酒造りを行う酒蔵をはじめ、黒牛や黒豚、カンパチなど海と大地の恵みを味わえるグルメが揃い、戦争の歴史を今に伝える資料館など学びの場も点在します。観光と食、そして歴史を一度に体感できる魅力あふれる旅のルートをご紹介します。
生産者の顔が見える、地元を愛し地元に愛される焼酎造り ―小鹿酒造株式会社―
最初に訪れたのは、小鹿酒造。大隅・鹿屋の自然の恩恵と、蔵人の技で本格芋焼酎を造る、地元で愛されている焼酎蔵です。小鹿酒造の位置する鹿屋市吾平町は、大隅半島に連なる国見山地の麓。照葉樹林帯で知られる国見山地ですが、その地下100メートルから汲み上げたミネラルたっぷりの地下水が焼酎の味わいを支えています。
小鹿酒造が使用するさつまいもは、農業法人「小鹿農業生産組合」で生産されたもの。この組合は平成6年に設立され、小鹿酒造で必要なさつまいもをまかなっています。植え付けから収穫までの期間、蔵元と農家が連携を図ることで良質なさつまいもが育ち、とれたてのさつまいもは新鮮なうちにスピーディーに蔵に運ばれ、焼酎の仕込みに使われます。
今回案内してくださったのは、杜氏の上園芳和さんです。早速、実際のさつまいもを見せていただきました。蔵を訪れた11月は、仕込みの最盛期。仕込み期間中は、毎日さつまいもが蔵に運ばれてきます。このさつまいものひと山はおよそ8トン!迫力満点です!
ホワイトボードには、その日にさつまいもを搬入した生産農家の名前が記載されていました。「お前んとこは条件が厳しくて“のさん”(鹿児島弁で『きつい、困る』)」とおっしゃる農家の方ほど、質の良いさつまいもを持ってきてくださる、と笑う上園さん。蔵人と農家のお互いを信頼する関係性が垣間見えます。
芋選別作業は最初の工程で、焼酎の味を決める、最も重要な作業です。不要な箇所を瞬時に判別し、切り落としています。10~12名のベテランスタッフの手により行われる様子は、まさに職人技です。20年以上、この作業に携わっているスタッフさんもいらっしゃるそうです!
つづいて、一次もろみ・二次もろみが造られる様子を見学。巨大な発酵タンクが所狭しと並んでいます。米麹と酵母と水の合わさった一次もろみの熟成期間は、約5~6日間。さつまいもを仕込んだ二次もろみは初日から2日目まではタンク甕の中で酵母が元気に動き、ボコボコと賑やかな音を立てています。一方で3日目以降のものは、とても静か。もろみが生き物であることを実感します。
泡立ちや色、香りは日ごとに異なるため、杜氏たちは感覚を研ぎ澄ませながら、発酵の状況を探っているとのこと。二次もろみの10日間も含め、時間をかけて発酵が進んでいきます。タンクの上から立つ甘酸っぱい香りがたまりません。
次は、『黒麹仕込み 甕貯蔵「天と地と人と」』の原酒が眠る甕貯蔵室です。蒸留後、余分な油分などが取り除かれた原酒は甕に移され、貯蔵熟成されます。静かな部屋に甕貯蔵で約2年間寝かされ、そこからさらにホーロータンクにて熟成を重ね、ブレンドして仕上げられるとのことでした。すべての焼酎が長く寝かせればいいわけでもなく、この原酒に関しては甕貯蔵の熟成香と酒質のバランスを取るのに一番良いタイミングがここだと判断するそう。年月とともに丸く滑らかに、落ち着いた味わいへ変化していくとのことで、ほぼ製品に近い芳醇な香りを体験できました!
最後に、代表銘柄の「小鹿」を初め、数種類を試飲させていただきました。小鹿のほのかでスッキリとした甘さ、おだやかな甘い香りと軽く切れのよい甘味は、「ぜひお湯割りで味わってほしい」と上園さん。焼酎をもっといろいろな人に飲んでほしいと若手社員も加わって開発した芋焼酎「Bliss-Time(ブリス-タイム)」は、華やかでフルーティーな香りが炭酸割りによって引き立ち、鼻に抜けていきます。青いボトルが涼やかな鹿屋市の海上自衛隊とのコラボ商品なども人気だと紹介いただきました。
地域とも連携し、鹿屋の自然の力を借りながら、五感を研ぎ澄ませた人の技で造り上げる小鹿酒造の製品は、まさに「天と地と人と」。自然や造り手に感謝の想いを馳せながら飲みたい、そんな本格焼酎ばかりでした。
小鹿酒造
TEL:0994-58-7171
営業時間:8:00~17:00
見学時間:9:00~16:00(要予約)
グルメ|榮樂寿司
次に訪れたのは、地産地消を大切に、鹿屋を中心に鹿児島県産の地魚を提供する「榮楽寿司」。昭和40年の創業以来、この地で営む老舗の寿司店です。以前、その地は駅前商店街の一角で、町名に含まれた「榮」の字と縁起の良い「楽」の字をかけあわせて今の店名が誕生したのだとか。そう聞かせてくれたのは、2代目店主の米川淳司さんです。
メニューのおすすめは、新鮮な魚介と“うんまか深海魚”を贅沢に味わえる「特選すし御膳」(昼の部)。特上の「福(ふく)」は、旬の地魚握り鮨10貫に茶碗蒸しや小鉢、サラダなどもついたボリューム満点の内容です。取材時のネタも、どれもこだわりの詰まった逸品ばかり。米川さん自らが一つひとつのネタを紹介し、大隅半島の豊富な海の幸について教えてくださいました。
すし御膳にあわせて、サイドメニューの「魚(いお)しゃぶしゃぶ」もおすすめの一品。鹿児島県のブランド魚に認定されている「かのやカンパチ」を味わえます。鹿児島県は、カンパチの水揚げ量が全国で第1位を誇り、中でも「かのやカンパチ」は鹿屋市の市花である“バラ”のエキスを混ぜた餌で丁寧に育てられ、臭みがなく、油がのったぷりぷりの食感が特長。鹿児島県産の緑茶を沸かした鍋に通し、自家製ポン酢でいただきます!
さらに注目は、新鮮な「かのやカンパチ」を、鹿屋産の玄米黒酢をブレンドした特製酢で締めた、“かのや名産”「かんぱち箱寿司」。徳之島産の黒糖で煮込んだ甘酢煮昆布の旨味と曽於産の柚子の風味も相まって、思わず顔がほころぶおいしさです。県内外全てのお客様に、「鹿屋の美味しい思い出を!」と日持ちのするお土産用の押し寿司の開発へ至ったそうです。
料理にあわせて、店主おすすめの地元の焼酎とのペアリングを味わうこともできます。炭酸割りの提供時には季節により、大隅産の「辺塚だいだい」をひと絞りするサービスも。辺塚だいだいは、お寿司の香りづけにも使用されています。
地元食材や食育への情熱に溢れた店主のもてなしで、大隅半島の旬を思う存分味わえる名店でした。
榮樂寿司
TEL:0994-42-4402
営業時間:昼/11:30~14:00(L.O 13:30)、夜/18:00~22:00(L.O 20:00)
定休日:月曜
照葉樹林に囲まれた小さな蔵が醸す、丁寧で優しい味わい ―有限会社 神川酒造―
次に訪れたのは、神川酒造。1963年に肝属郡大根占町に設立された後、当時の小鹿酒造協同組合(現:小鹿酒造)の役員で引き継ぎ、1990年鹿屋市永野田町に移転し今に至ります。使用されるさつまいもは、小鹿酒造と同様に小鹿農業生産組合で収穫された新鮮なさつまいものみとのこと。大隅の自然の恵みを受けながら、時間をかけて優しい焼酎づくりを行っています。
従業員数はなんと5名という、少数精鋭の蔵元です。小規模の利点を活かし、神川酒造ならではの焼酎造りが行われています。先代から培われてきた製法と新たな技術を持ち寄り、主に県外出荷の「別撰神川」や「瀞とろ」などを製造しています。まずは、仕込みの米麹造りについてお伺いしました。
お話くださったのは、代表の児玉拓隆さんです。米蒸し機の中では、お米の水分量や大きさ、水温、湿度などが細かく管理され、蒸気の量や蒸し時間を調節し、絶妙な状態が保たれています。外はしっかり乾き、中は柔らかい“外硬内軟”の状態の蒸し米を作ることで良い米麹ができ、米麹の出来は、発酵具合と香味の仕上がりに直結するそう!
つづいて、もろみ造りの工程へ。1次もろみは5日間、2次もろみは8日間発酵させます。常にもろみの温度と気温を計りながら、最適な発酵が行われているかの確認が重要とのこと。発酵の経過日数によって、状態が大きく異なっていました。ひとつのタンクには、黒色の1次もろみが。経過2日目の黒麹仕込みのもろみだそうです!
いよいよ蒸留です。蒸留器は断熱材を巻き付けることで、柔らかい蒸気でゆっくり蒸留する工夫が行われていました。これにより、柔らかな口当たりが実現できるとのこと。今でも受け継がれる、先代社長の独自の工夫が至るところで見受けられます。
一つひとつの工程で緻密な手法を重ね、蒸留した原酒は貯蔵熟成されます。こうして完成したのが、「照葉樹林」、「瀞とろ」や「別撰 神川」などの銘柄です。中でも「瀞とろ」は、黄金千貫と黒麹を使用し、大隅の照葉樹林から湧き出る伏流水からなる、後味のキレが良い人気商品です。
蔵に掲げられた、「瀞とろ」に込められる想いを綴ったタペストリーがとても印象的でした。「瀞」とは川の流れが緩やかなところを意味します。「せわしない時代の流れの中でも、ふと立ち止まってゆっくりと味わってほしい焼酎を」と、杜氏や蔵人が心を込めて造っているということでした。
杜氏の柚木隆さんは、「まだ焼酎に馴染みのない方にこそ、お湯割りで鮮明な香りを味わってみてほしい」と愛情を込めて語ってくださいました。手間を惜しまず、良いものを造ることにこだわる、照葉樹林の中の小さな蔵元でした。
神川酒造
TEL:0994-40-4010
営業時間:8:00~17:00
見学時間:9:00~16:00(要予約)
観光・ショッピング|出水田鮮魚
「イ」の文字の暖簾が目を惹く外観。新鮮な獲れたての魚から、加工品やお惣菜まで揃う「出水田鮮魚」にやってきました。先代から50年以上続くこの店は、当初卸売業のみを行っていましたが、3代目店主の出水田一生さんの「魚食を広めたい」という想いから、商品販売以外にも魚を通じた体験メニューやイベント開催など幅広い活動を行っていらっしゃいます。
店内のショーケースには、その日に仕入れた鮮魚が美しく並んでいます。また、自社製造の加工品なども盛り沢山。
中でもイチオシの「甘鯛の一夜干し」は、添加物は使用せず、熟成乾燥で仕上げることで素材の旨味が濃縮されている人気商品とのこと。ご家庭のグリルやフライパン、または用意があれば七輪で焼くとさらに美味しくいただけるそうです。県外のお客様も買い求められるように、ネット販売もされています。
また、体験メニューでは「魚市場目利き体験」や「魚捌き体験」など、魚が食卓に並ぶまでの流れを学ぶ貴重な体験ができます。美味しさの理由を知ることで、食へのありがたみや感謝の気持ちがさらに食事を美味しくさせることを出水田さんは伝えていらっしゃいます。鹿屋を訪れた際は、一度立ち寄るべきスポットです。
出水田鮮魚
TEL:0994-42-3510
営業時間:11:00~18:00
定休日:水曜・日祝
観光|神徳稲荷神社
神徳稲荷神社は、伏見稲荷大社を総本山とし、全国各地に約三万社あるといわれる稲荷神社のひとつ。商売繁盛、家業繁栄、心身健全、交通安全、五穀豊穣を守り、豊かさや幸福を与えてくれる神様が祭られていると言われています。2018年に再建され、最初に出迎える透明鳥居のフォトジェニックな装いが印象的です。
えんむすびの大石や願い事によって持ったときの重さが変わる「うんだま石」の他、厄割硝子に向かって念を込めて投げる厄割玉など、見どころ満載。
最後に待ち構える千本鳥居は、自然の中に凛とした朱色の鳥居が連なる様子から、清らかな気持ちで歩くことができます。
神徳稲荷神社
TEL:0994-36-0303
営業時間:9:00~17:00
歴史|鹿屋航空基地史料館
屋外に実際に使用された航空機がずらりと並ぶ、「鹿屋航空基地史料館」。館内には第一次世界大戦から第二次世界大戦に至るまで、航空機と戦争の歴史を紹介する展示や特攻隊に関する資料が保存・展示されています。遺族の方々から寄贈された遺品や写真が200点以上に及び、当時の若者の思いに触れることができます。
史料館長の永山勉さんにご案内いただき、施設の大きな見どころの一つ、“零式艦上戦闘機”の復元機を拝見しました。海中から引き揚げられた機体がほぼ原形にまで修復されています。なんと、展示横の階段を上り、上から機体を見下ろす貴重な体験もできました!
戦後の海上自衛隊の歩みや現在の活動も紹介されており、航空史を幅広く学べる点も魅力です。過去を知り、今、そして未来について考えるきっかけをもらえる場所でした。
帰りは、隣接する鹿屋市観光物産総合センターでお土産選びもおすすめです。レストランでは、鹿屋を代表するご当地カレー「海軍カレー」もいただくことができますよ!
鹿屋航空基地史料館
TEL:0994-42-0233
営業時間:9:00~17:00(最終入館/16:30)
定休日:12/29~1/3
入場料:無料
鹿屋市観光物産総合センター
TEL:0994-41-6111
営業時間:9:00~17:00
定休日:12/29~1/3
観光|ユクサおおすみ海の学校
最後に訪れたのは、“日本一海に近い学校”と呼ばれた鹿屋市立菅原小学校をリニューアルした体験型宿泊施設「ユクサおおすみ海の学校」。新しさと懐かしさが融合したスポットです。県内外の訪問者から地域の方々まで、幅広く利用されています。
恵まれた大隅の自然を存分に感じられる場所で、宿泊やキャンプ場のほか、体験アクティビティも展開しています。マリンスポーツや釣りなどの海のアクティビティに加え、登山やサイクリングも。お好きなメニューを楽しむことができます。
2025年春にオープンしたばかりのサウナも見どころのひとつ。体育倉庫をリノベーションし、本格的なサウナが誕生しました。オーシャンビューで解放感のあるロケーションは、リラクゼーション効果をさらに高めてくれます。まさにヒーリングスポットです!地域と連携し、耕作放棄地で育てた生姜を使用したジンジャエールやジンジャビールでサウナの締めくくりも。
自然と共生するユクサおおすみ海の学校は、今も遊びを通じた学びの場所として、大隅の魅力を発信していました。
ユクサおおすみ海の学校
TEL:0994-31-8193
営業時間:10:00~18:00
※本記事の情報は、取材当時のものです。



