薩摩半島の南端、火山の恵みと海辺での暮らしが息づく、指宿・山川エリア。
古くから蒸留酒やさつまいもの文化を育んできたこの地には、伝統の甕仕込みを守る焼酎蔵「田村合名会社」があります。酒蔵を起点に、名物のかつおのたたきが味わえる食堂や老舗酒店、活気あふれる道の駅を巡りながら、この町の文化をたどります。旅の終盤には、東シナ海を望む絶景露天風呂や、かつて製塩で栄えた町の記憶を感じる場所も。
土地の温もりに触れ、南国パワーでチャージする“大人の南薩旅”をご紹介します。
焼酎文化の礎の地で守り続ける、伝統の甕仕込み
―田村合名会社―
まず訪れたのは、明治から続く老舗焼酎蔵・田村合名会社。薩摩半島最南端の山川地区で、今でも伝統的な甕仕込みによる焼酎造りを続けています。
この山川の地には、さつまいも伝来以前の約500年前から蒸留酒文化が存在していたと推測される文献が残っています。当時は雑穀を原料とした焼酎だったと考えられていますが、蒸留酒は庶民の酒として親しまれ、長い年月をかけて現在の芋焼酎文化へと発展していきました。
田村合名会社が酒造業として登録されたのは明治30年前後。現在では珍しい「合名会社」という社名にも、長い歴史が刻まれています。
焼酎造りを支えるのは、契約農家との強い結びつきです。鮮度の高いさつまいもを使用するため、農家と直接契約を結び、畑ごとの管理や収穫日まで指定する体制を取っています。この体制を始めてから、焼酎の品質が格段と上がったそうです。芋選別では、切り落としが少なく、ほぼ丸ごと1本使用しています。
実際のさつまいも畑にもご案内いただきました!この日は晴天で真夏のような気候。青々とつづく芋畑の先に、指宿の名峰・開聞岳が美しくそびえ立ちます。
畑の多くは開聞岳の火山活動によって形成された火山灰土壌です。軽石や砂質を多く含み、水はけは抜群!さつまいも栽培には理想的な環境です。
近年問題となったさつまいも基腐病の被害が比較的少なかったのも、この土地ならではの地質や農家による細やかな巡回管理が関係しているとのことでした。
田村合名の主力原料は「黄金千貫」。さらに「紅さつま」を使用した焼酎も造られています。どちらも芋本来の自然な甘さを活かしているのが特徴で、田村合名らしい優しく素朴な味わいに繋がっています。
蔵に戻り、杜氏の蓮香健史さんの案内の元、酒造りのこだわりを伺います。この大きなドラムでは1日におよそ900キロのお米を蒸し、麹菌を合わせるそう。麹菌を混ぜてから、温度管理をして2日目に三角棚に移動し、人力で麹を平にならす作業が行われます。三角棚とは、結露による水分を流すための傾斜がついた棚のことです。この2日間で、米麹が完成します。
こうしてできた米麹は、創業当時から続く「甕仕込み」の工程へ。現在、和甕を製造している業者はなく、今あるものを修復しながら使い続けているとのこと。中には、明治時代から使われているものも!古い甕には微細な気孔があり、そこに蔵付き酵母が棲み着いています。長年かけて育まれた微生物環境が、この蔵だけの味を生み出しています。
一次仕込み、二次仕込みと過ぎ、発酵を終えたもろみは蒸留工程へ。蒸留器には4方向から管を通し、蒸気圧を細かく調整しながら、芋本来の香りや旨味をしっかり残します。田村合名が大切にしている昔ながらの厚みのある味わいは、こうした製法から誕生します。
貯蔵熟成された原酒は度数の調整などを経て、完成です。見学の最後に代表銘柄“純黒”を試飲させていただきました。二次仕込みまで甕で仕込んだ「甕仕込み 純黒」は、甕の中の温度管理など、人一倍手間をかけた味わい。さつまいもの優しい甘さが口いっぱいに広がります。
さつまいも伝来の歴史が息づく山川の地。そこで育つ原料芋、契約農家との信頼関係、そして明治時代から続く甕仕込みによる、蔵付き酵母が生み出す味わい。
田村合名の焼酎には、この土地が育んできた文化そのものが詰まっています。
田村合名会社
TEL:0993-34-0057
営業時間:9:00~17:00
見学時間:9:00~15:00
ショッピング|蓮香酒店
蓮香さんに案内いただき、近くの「蓮香酒店」へ。ここは、山川の地に根付き、100年近く営業を続けている商店です。店主は蓮香さんの父・尚道さん。食品から日用品まで取り揃え、地域の方たちの暮らしを支えています。この地域でイベントや祝い事があれば、決まって焼酎の注文が入るそうです。
田村合名の焼酎も、ここでほとんどの銘柄を購入可能です。代表銘柄の「純黒」から、2026年春に発売されたトロピカルな香りを楽しめる「ALOHA RICH HIGHBALL(アロハリッチハイボール)」まで、気分に合わせて選んだり、まとめ買いしたり。小さな港町ならではの、心落ち着く憩いの場に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
蓮香酒店
TEL:0993-34-1048
営業時間:8:00~20:00
定休日:不定休
グルメ|くり屋食堂旅館
気づけばもうお昼時。酒店から酒蔵の方に戻り、近くの「くり屋食堂」に来ました。現在の店主は3代目の篠原健太郎さん。創業からおよそ80年近い歴史を持ち、地元の方はもちろん、県内外の観光客のお腹を満たしてきました。
もともとは線路沿いでの営業から始まったというくり屋食堂。食堂を利用したお客様から「泊まる場所がほしい(食事と一緒にお酒も楽しみたい)」という声が寄せられたことをきっかけに宿泊業もスタート。現在では旅館も営みながら、スポーツ合宿や大会で訪れる学生たちの受け入れも行っています。
入店してすぐに目に入る、ラベルに店名が記されている焼酎の中身は田村合名の「純黒」でした!地域の繋がりを感じられる発見が至るところにあります。食事もお酒も山川一色、地のものを心ゆくまで楽しめます。
くり屋食堂を訪れたら、まず味わいたいのが名物のかつおのたたきです。一本釣りの新鮮なかつおを使用しています。先代の時代に高知県出身の親族から教わった“かつおのたたき”をきっかけに、独自のたたきのたれを考案し、現在の看板メニューへと発展していったそうです。
創業当時から受け継がれてきたオリジナルのたれは、お酢をベースにした秘伝のレシピで作られており、その詳細は現在も店主夫妻のみが知る、門外不出の味です。かつては店内でしか味わえませんでしたが、コロナ禍をきっかけに「自宅でも食べたい」という声が増えたことから販売も開始。現在は道の駅などでも購入することができます。
一本釣りのかつおをわら焼きで仕上げ、たっぷりの玉ねぎとこだわりのタレをかけて味わう一皿は、大満足の見た目とボリューム。少量のにんにくと生姜も程よいアクセントで、焼酎とのペアリングにもイチオシです!
かつおのたたき以外にも、海鮮メニューのラインナップは豊富。仕入れの状況によりある日とない日があるという指宿産「菜の花カンパチ」のお刺身定食や、大きな海老を丸ごと揚げた「特大海老フライ定食」など、何度も訪れて制覇したいメニューばかりです。
山川湾でも養殖が行われているカンパチは、肉厚で脂がのっていて、噛むほどに旨味が広がります。篠原さんは魚の状態を見極めて、仕入れた当日は刺身として、寝かせて旨味が増したものは海鮮丼として提供するそうです。そのカンパチを目当てに訪れる方も多いとのことでした。
「この地域は、のんびりした旅に向いていると思います」と話す篠原さんの言葉の通り、店内からは山川の海が眺望でき、海の幸とともに身も心もゆったりと落ち着いた時間を過ごせました。天然の良港として知られる山川港には大型船も出入りし、港町ならではの風景が広がります。地域の暮らしや産業を身近に感じられるのも、この土地ならではの魅力です。
創業から受け継がれてきた味と、おもてなしを守り続けるくり屋食堂では、人と人との距離が心地よく、山川の懐の深さにつつまれたひと時でした。
その地で獲れた新鮮な食材が織り成す、山川の食文化をこの店で味わってみませんか。
くり屋食堂旅館
TEL:0993-34-0214
営業時間:昼/11:00~14:00
夜/17:00~20:00
定休日:不定休
グルメ・ショッピング|道の駅山川港 活お海道
次は、国道269号を進み、薩摩半島最南端の「道の駅山川港 活お海道」へ。港で水揚げされた鮮魚や特産品を扱う、この町の観光名所です。
店内には商品が所狭しと並んでおり、想像の何倍もの品数に驚きました。お土産品や指宿の特産品、鹿児島の焼酎などが約3,000アイテムあるそうです。お酒は、田村合名など地元の酒蔵の銘柄のほか、鹿児島を代表する銘柄が豊富に揃っていました。
駅長の榎園孝二さんは、歩くだけでも楽しいような臨場感ある店内を想像し、ここまで進化したと話します。
さらに奥へ進むと、山川港で水揚げされたかつおの加工品などを販売するテナントが並びます。今回伺った「新屋敷建商店」は、なまり節(生節)が人気とのこと。特にみそ節が人気だそうで、そのままスライスして味わう以外にも、チャーハンの具にするとおいしいとのことでした!焼酎の肴にぴったりです。
店主の説明を直に聞きながら、実際に試食。かつおの香ばしい香りが鼻に抜けていきます。ふと焼酎の並んでいる横の棚に目を向けると、“好きな焼酎、お呑みください!”の文字が。なんとここでは、焼酎をサービスしているそうです!温かい店主のもてなしに話も弾み、想い出に残るショッピングができました。
他にも、“かつお”の形をしたたいやき風の「かつお焼き」を販売しているコーナーも。熱々の鉄板で焼かれた、出来立てのご当地スイーツが食べられます。ほかほかで、端の方はパリッとした生地。程よい甘さのあんこが絶品です!
空から見ると、鶴が左右に翼を広げているように見えることから「鶴の港」と呼ばれる山川港。その地形をモチーフに、この建物も鶴の両翼のように左右にフロアが広がっています。
館内には海鮮を味わえる食堂もあり、隅から隅まで指宿・山川の食の魅力がつまった道の駅。家でも旅の余韻を楽しめる、お土産探しに最適なスポットです。
道の駅山川港 活お海道
TEL:0993-27-6507
営業時間:8:30~17:30(食堂/11:00~15:00)
定休日:第3水曜(祝日の場合は翌日)
史跡|山川製塩工場跡
指宿を代表する観光施設「たまて箱温泉」の敷地内にある山川製塩工場跡地は、かつてこの地で盛んに行われていた製塩業の歴史を今に伝える産業遺産です。
指宿での塩づくりは、大正11(1922)年に始まりました。豊富に湧き出る温泉に着目した黒川英二氏が、温泉熱を利用して海水の水分を蒸発させる製塩を開始したことがその始まりとされています。昭和17(1942)年には、戦時中の塩不足を背景に政府が「自給製塩制度」を打ち出し、地域の製塩業はさらに発展しました。
昭和19(1944)年に鹿児島科学工業(現在のサンケイ化学)が、山川伏目で泉源の掘削と工場の建設を行い、本格的な温泉熱利用製塩を開始します。
しかし、新たな製塩技術の普及と発展に伴い、昭和39(1964)年に事業を停止。全国各地で行われていた温泉製塩の中で、日本で最後まで操業した場所となりました。
現在も伏目海岸では白い蒸気が噴き上がり、温泉と海の恵みを生かした地域産業の歩みを見守り続けています。
また、伏目海岸の一帯にそびえる白い崖は、池田湖が噴火したときに堆積した火砕流堆積物。山川特有の岩壁はこの場所以外にも、山川港付近の黄色みがかかった岩肌の「山川石(福元火砕岩類)」など、至るところに点在しています。地熱や温泉、火山活動など、大自然のエネルギーを体感できる場所です。
山川製塩工場跡
TEL: 0993-22-2111(指宿市観光課)
観光|ヘルシーランド露天風呂 たまて箱温泉
つづいて、製塩工場跡のお隣へ。旅の締めくくりに、指宿市が運営する温泉保養施設「ヘルシーランド」内にある「たまて箱温泉」にやってきました。
浦島太郎伝説ゆかりの地である指宿にちなみ、玉手箱を開けたときのような驚きと感動を届けたいという思いから名付けられたそう。その名の通り、絶景と癒しを求める地域の方々や観光客で、連日賑わっています。
露天風呂は2種類。和風露天風呂は、湯船から雄大な錦江湾とその先に薩摩富士とも呼ばれる開聞岳を望みます。晴れた日には屋久島や竹島、硫黄島まで見渡すことができ、“日本一の絶景露天風呂”と称されるのも納得の眺望です。その反対側の洋風露天風呂からは、竹山が見えます。犬のキャラクター「スヌーピー」が寝そべっているように見えることから、別名「スヌーピー山」とも呼ばれる山です。
平成15(2003)年の開業から人気を博してきた施設は、2025年11月にリニューアルオープン。新たに展望所とカフェエリアを開設し、入浴後もゆったりと過ごせる空間へと生まれ変わりました。入口近くには焼酎の販売スペースもあり、旅中で買い忘れてしまっても心配無用です。
ショーケースを覗くと、色とりどりのアイスキャンディーが。表面には、指宿で育ったエディブルフラワーがあしらわれています。つい手が伸びてしまう可愛らしさです。また、指宿産のマンゴーをたっぷり使用した、数量限定のマンゴーサンデーも人気だそう。
展望所からは伏目海岸を一望でき、長崎鼻や開聞岳など指宿の名所、そして錦江湾の先の島々まで眺望を楽しめます。上から眺めていると海岸沿いにある姉妹施設「山川砂むし温泉 砂湯里」も発見。日本唯一の砂むし温泉と露天風呂を一度に楽しめるのは、温泉地・指宿ならではの魅力です。
館内を案内してくださった支配人の宮下千尋さんによると、来場者数は多い時に1日約1,000人にもなるそう!季節を問わず、多くの方が訪れると言います。山川の大自然を目に焼き付けながら、旅の疲れを癒してはいかがでしょうか。
土地の恵みと人の力が合わさり、独自の文化を育んできた指宿・山川。南国のみなぎるパワーと風土の豊かさに、身も心も温まる大人の旅でした。
ヘルシーランド露天風呂 たまて箱温泉
TEL:0993-27-6966
営業時間:9:30~19:30(受付は19:00まで)
定休日:木曜(祝日の場合は翌日休)
入湯料: 大人/900円、小人/450円 ※3歳未満無料
※季節により変更となる場合があります
※本記事の情報は、取材当時のものです。

















